TCFD提言に基づく気候関連情報の開示
当社は2021年12月、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明するとともに、「TCFDコンソーシアム」に加入しました。優先的に取り組むべき経営上の重要課題(マテリアリティ)のひとつに「気候変動の緩和と適応」を位置づけ、本業である省エネルギー性能の高い空調・衛生設備や塗装プラントの提供を通じて、環境負荷低減に取り組んでいます。
また、このたび気候関連のリスクと機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える中長期的なインパクトを把握するため、環境システム、塗装システムの2事業についてシナリオ分析を実施しました。この結果を踏まえ、TCFD提言に沿った気候関連の情報を開示します。
ガバナンス
当社は、持続可能な社会の実現と企業の永続的成長の観点から、気候変動をはじめとした社会課題への取り組み強化を目的に、取締役会の諮問機関となる、サステナビリティ委員会を設置しています。同委員会は、社外取締役を委員長とし、委員長を含む社外取締役4名、業務執行取締役5名の9名で構成され、当社グループのサステナビリティ課題への対応に関して、取締役会からの諮問に答申するほか、取締役会に対し提言などを行っています。
また、取締役会決議などに基づく執行側の実行機関として、代表取締役社長を委員長とする業務執行取締役5名および各事業部の営業部門責任者で構成するサステナビリティ推進委員会を設置し、サステナビリティ課題への対応のための諸施策を検討し、実行しています。
気候関連リスク・機会の評価および管理については、リスクマネジメント委員会の委員長である代表取締役社長に責任を付与しています。なお、インセンティブとの連動に関しては、業務執行取締役の報酬体系に非財務指標を評価要素として一定割合導入し、推進活動の強化を後押ししています。
戦略
気候関連のリスクおよび機会を特定・評価し、事業に与える影響を把握するため、環境システム事業および塗装システム事業を対象に、以下のプロセスでシナリオ分析を行いました。
具体的には、2035年度において、当社グループへの影響度が高いリスクと機会の要因を洗い出し、世界の平均気温上昇が2℃未満に抑制されることを想定した2℃未満シナリオと、4℃程度上昇する4℃シナリオについて、それぞれ政策や市場動向の移行に関する分析と、災害などによる物理的変化に関する分析を実施しました。当社グループは「炭素税」「顧客行動の変化」「省エネ・再エネ技術の普及」を移行の要素、「平均気温の上昇」を物理的な要素と認識し、重要なリスク・機会として特定しました。
なお、各シナリオで検証した事業への財務影響に関しては、矢印を用いて影響度合いを10億円単位で示すとともに、それぞれの対応策を示しています。
分析のプロセス
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リスク重要度の評価
環境システム事業・塗装システム事業における現在および将来に想定される組織が直面する気候変動リスクと機会を特定し、それらが将来事業に与える重要度を評価
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シナリオ群の定義
複数のシナリオを選択したうえで、リスク・機会項目に関するパラメータの客観的な将来情報を入手し、それを元に、各シナリオにおける将来のステークホルダーの行動など当社グループを取り巻く世界観を整理
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事業インパクト評価
シナリオごとの世界観に基づき、当社グループがとるべき戦略オプションを考察し、既存の経営・事業戦略や計画とのギャップを明確化し、事業的なインパクトを試算
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対応策の定義
各シナリオと当社グループの対応を踏まえ、特定されたリスクと機会を扱うために、適用可能で現実的な対応策を検討
選択した気候変動シナリオ
IEA(国際エネルギー機関)などが公表している気候変動シナリオを参照し、2℃未満(低炭素移行)シナリオおよび4℃シナリオ(成り行き)を選択しました。気候変動影響が中長期の期間をかけて顕在化していく性質のものであるとの認識より、時間軸としては2035年における気候変動の影響を分析しています。
シナリオ群の定義
気候変動の影響が顕在化する流れを、ロジックツリーを用いて整理しました。
中長期の時間軸で発生する気候変動については予測困難であるものの、当社グループでは事業に与える影響や対応策を可能な限り議論し、レジリエントに対応していくことが重要と考えています。
〈想定の4℃シナリオ〉環境システム事業、塗装システム事業
政府による低炭素政策も限定的で、低炭素社会への移行は限定的な範囲に留まり、平均気温の上昇によりヒートストレスや自然災害リスクが高まります。これらは当社グループの事業に対し、以下のような影響をもたらすと想定されます。
日本国内では炭素税が導入されない想定のため、炭素税導入による資材原価の上昇の影響は限定的です。事業ごとにみると、環境システム事業ではZEB、塗装システム事業では省エネ設計プラントの需要が広がるものの、顧客からの低炭素対応要請による売上への影響も限定的と想定されます。その一方で、平均気温の上昇に伴い、植物工場・空調システムの需要の取り込みや施工現場における熱中症・感染症対策の強化が必要になります。
〈想定の2℃未満シナリオ〉環境システム事業、塗装システム事業
物理リスクの影響は限定的な範囲に留まりますが、各種規制や顧客からの要請など移行リスクへの対応が必要になります。これらは当社グループの事業に対し、以下のような影響をもたらすことが想定されます。
政府による低炭素政策の強化により、炭素税負担および資材原価の上昇の影響がもたらされ、コストの上昇が見込まれます。
事業別にみると、環境システム事業では、顧客からの低炭素対応要請が強まり、省エネ規制、新築のZEB義務化などにより、既存の空調施工売上は減少する一方で、当該要請などに対応した製品・技術の開発により売上が拡大することが見込まれます。
塗装システム事業では、塗装工程の低炭素化への需要が拡大し、低炭素化・省エネ化非対応の既存の製品売上が減少する一方で、これらの対応をした製品・技術の開発により売上が拡大することが見込まれます。
シナリオ分析結果
シナリオ分析の結果、当社グループの事業に影響を与える重要な気候関連のリスクおよび機会、2035年度時点における財務影響は以下のとおりです。
重要なリスク・機会の項目 | リスク | 機会 | 各シナリオにおける財務影響 | 想定される対応策 | |||
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4℃ | 2℃未満 | ||||||
移行リスク・機会 | 政策・規制 | 炭素税 | 炭素税の導入 (炭素価格の上昇および資材原価の上昇により、4℃シナリオでは約3億円、2℃未満シナリオでは約90億円のコスト上昇) |
低炭素建築物への需要の増加(売上の増加) 低炭素塗装プラントへの需要の増加(売上の増加) |
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業界・技術・市場 | 顧客行動の変化、省エネ・再エネ技術の普及 | 顧客からの要請への対応(コストの上昇および不適切な対応→売上の減少)、省エネ・再エネ技術の開発における競争力の低下(売上の減少) | 顧客の低炭素建築物へのニーズの取り込み、ZEBの拡大による施工需要の増加により4℃シナリオでは約11億円、2℃未満シナリオでは約22億円の売上増加、先進的な省エネ・再エネ技術の開発(売上の増加) |
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物理リスク・機会 | 慢性 | 平均気温の上昇 | 平均気温の上昇による労働生産性の低下や猛暑日の増加による施工中止(4℃シナリオでは約4億円、2℃未満シナリオでは約3.7億円のコストの上昇) 労働法制の改正(売上の減少) |
空調システム技術の需要増加(売上の増加) 施工における機械化・自動化の推進(売上の増加) 植物工場の需要増加(売上の増加) |
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リスク管理
当社グループでは、気候変動を含む重大なリスクの低減と顕在化するリスクの最小化に努めています。リスクマネジメント委員会においては、当社グループの総合的な観点から、各リスクのリスク度評価、対応すべきリスクの選定、リスク低減に向けた方針などの策定・実行を行っています。
具体的にはリスクマネジメント規程を定め、これに基づいてリスクマネジメント委員会を設置し、当社グループのリスクの一元的かつ効果的・効率的な管理を実施しています。同委員会は、代表取締役社長を委員長として、年に2回および必要時に開催することとし、全社的なリスクマネジメントの基本方針および責任体制、運営などを定め、周知・徹底を図っています。
気候変動を含む重大なリスクに関しては、各所管部門において項目を抽出し、「経営への影響」や「発生の頻度」を考慮に入れ、大・中・小の3段階で「リスク度(重要度)」を判定しています。
その中で戦略や財務上、重要な影響を与える大の項目に関しては、優先的に対応すべきリスクとして選定し、重点管理方針・目標の立案を行ったうえでリスクマネジメント委員会へ報告します。
これを受け、リスクマネジメント委員会では、全社的・統合的な観点から各リスクのリスク度評価および重点管理方針・目標について討議し、基本方針の策定を行います。その後、各所管部門では活動計画の遂行状況のモニタリングを実施し、結果をリスクマネジメント委員会へ報告します。
リスクマネジメント委員長(代表取締役社長)は、全社のリスクマネジメントの状況を取りまとめ、内部統制委員会での討議を経て、年に2回、取締役会への報告を行います。
また、経営全般の重要事項を決定する経営会議では、気候変動のリスクや機会に対する討議をはじめ、気候変動シナリオの見直しや長期戦略への反映を行っています。気候変動リスクを含めた関連の課題に関しては、リスクマネジメント委員会の報告と並行して、取締役会への報告の検討も行います。
なお、内部統制委員会メンバーは、全社的・統合的な観点からリスク評価を強化するため、全社的な評価を追加で行い、方針を策定しています。
指標と目標
気候関連のリスクおよび機会の管理のため、GHG排出量だけでなく、エネルギー消費量や水使用量、廃棄物排出量などの指標を設定して種々の対策を実行しています。
削減目標
当社グループは、気候変動が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、事業活動に伴うCO2排出量を指標とし、中期経営計画においてGHG排出量削減目標を設定しています。なお、バウンダリーの拡大などを理由に、2024年にはSBT※認定を視野に入れた目標を再設定しました。
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※SBT:Science Based Targetsの略。「パリ協定」が求める水準と整合したGHG排出削減目標
事業活動におけるCO2排出量
- スコープ1・2
- 2030年までに42%削減(2022年度比)
- スコープ3
- 2030年までに25%削減(2022年度比)
SBT認定
当社グループの温室効果ガス排出量削減目標は、2024年11月にSBTi(Science Based Targets initiative)より科学的根拠に基づく目標として認定されました。今後、当社グループの設計・施工による設備の運用段階におけるCO₂排出削減に資する技術の開発や、お客さまへの積極的な提案活動に取り組むとともに、国内・海外拠点において再生可能エネルギー由来の電力の導入などを通じて、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
Scope1,2,3の温室効果ガス排出量
スコープ1
排出量(t-CO2) | 26,867 |
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スコープ2
排出量(t-CO2) | 17,694 |
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スコープ3
排出量(t-CO2) | 10,813,779 |
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カテゴリ | 算定方法※ | 排出量(t-CO2) |
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カテゴリ1:購入した製品・サービス | 原材料・資材の調達量(金額データ)から算定 | 638,480 |
カテゴリ2:資本財 | 設備投資金額から算定 | 12,228 |
カテゴリ3:スコープ1、2に含まれない燃料 およびエネルギー関連活動 |
購入した電気、燃料の量から算定 | 8,211 |
カテゴリ4:輸送・配送(上流) | 調達した原材料・資材の調達にともなう輸送費から算定 | 60,718 |
カテゴリ5:事業から出る廃棄物 | 発生した廃棄物の種類別排出量から算定 | 2,773 |
カテゴリ6:出張 | 移動手段別の出張旅費金額から算定 | 2,999 |
カテゴリ7:雇用者の通勤 | 従業員への交通費支給額から算定 | 1,852 |
カテゴリ8:リース資産(上流) | スコープ1、2で算定済み | ― |
カテゴリ9:輸送、配送(下流) | 該当する活動なし | ― |
カテゴリ10:販売した製品の加工 | 一部該当する製品はあるが、売上高における割合が極めて少ないため除外 | ― |
カテゴリ11:販売した製品の使用 | 当社が納入した設備の運用にともなう排出量、当社が納入した機器からのHFC漏出量、想定使用年数から算定 | 10,085,014 |
カテゴリ12:販売した製品の廃棄 | 主要器材の種類別重量から算定 | 1,504 |
カテゴリ13:リース資産(下流) | 該当する活動なし | ― |
カテゴリ14:フランチャイズ | 該当する活動なし | ― |
カテゴリ15:投資 | スコープ1、2を開示していない投資先企業が多いためカテゴリ15推計値の妥当性が低く、また、カテゴリ15推計値がサプライチェーン全体に与える影響が小さいため除外 | ― |
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※原単位は、環境省「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(ver.3.4)」、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 社会とLCA研究グループ 一般社団法人サステナブル経営推進機構「LCIデータベース IDEAv2(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)」を使用
合計
スコープ1、2、3合計 | 10,858,340 |
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※CO2排出量はGHGプロトコルに基づき算出